クリティカルな業界ゆえにダウンタイムは許されない
1日に6兆米ドルもの取引を処理する企業にとって、ダウンタイムは決して許されません。ニューヨーク証券取引所で日々取引される多くが、ブロードリッジのFixed Income Platform (大手株式仲買業者23社のうち、18社が使用する株式ベースの取引システム)を介して処理されています。同社 IT担当副社長(VP)のScott Anderson氏は、次のように述べています。
「絶対にシステムを止められません。それがブロードリッジの経営ミッションです。当社のシステムが市場に及ぼす影響はあまりに大きいため、ダウンタイムは絶対に許されません」
ブロードリッジは、オートマチック・データ・プロセシング (ADP) がADP証券ブローカレッジサービス部門を分社化する形で設立されました。そのため、同社の事業の根幹はデータ処理にあります。しかし、変化し続ける金融業界に対応するには、さらなる革新的なソリューションの追及が求められます。
そこで同社では、最新のアプローチを実装し、グローバル市場向けに提供する既存ソリューションのセキュリティー、信頼性、一貫性の強化に乗り出しました。また、ヨーロッパ、アジア、中南米にビジネスを拡大するために、拡張性と管理性の向上も検討しました。
次に、同社では「イノベーションのABCD」(※2)を活用した、革新的なソリューションの開発に着手しました。これについて、同社 CIOのMark Schlesinger氏は以下のように話します。
「次のステップでは、イノベーションのABCDを活用することで、テクノロジーを変革させ、他社との差別化やお客様の差別化が実現できるか実証していきます。財務的な目標は2023年までに収益を2倍にすることです」
※2 イノベーションのABCD:AI(人工知能)&ロボティックスの「A」、ブロックチェーンソリューションの「B」、クラウドの「C」、デジタルの「D」、それぞれの頭文字を取ったもの
ブロードリッジは、新しいソリューションを拡大させるために、自社のコアインフラストラクチャーのモダナイズを進め、取引量に応じて変動する日々のトランザクションとストレージの需要を予測し、先を見据えて対策を練る必要がありました。「従来では、テクノロジーを常に構築、取得、保護、測定する必要があったため、効率的にビジネスを進めるのが難しい状況でした。これを解決するには、テクノロジーをすぐにでも使える状態にしておく必要があります。これにより、お客様のコミュニケーション、テクノロジー、データ、分析を次のステージまで引き上げられるようになり、新たなビジネス課題を見据えた対応が可能になります。当社は40億米ドル規模の企業ですが、当社モデルを採用した市場はその何倍もの収益を生み出すと予想しており、収益向上の余地がまだまだあります。当社はそのすべての利益を享受できると考えています」とAnderson氏は言います。
入念な検証により遅延ゼロのスムーズなインフラ移行が実現
ブロードリッジは、市場の拡大を見据えFixed Income Platformをより柔軟で動的なインフラストラクチャーへ移行することにしました。しかし、ミッションクリティカルなアプリケーションを実行する大規模なアーキテクチャーの場合、常時安定稼働が求められるため、この移行は大きなリスクになります。
同社の既存のシステムは、内蔵ディスクとスーパースケーラー対称型マルチプロセッサーを備えた強力なサーバーを使用していました。これは、共有リソースにまたがるのではなく、各サーバー内でデータを処理するアーキテクチャーになっています。同社では、プライベートクラウドの構築を実現するために、柔軟で拡張性の高いストレージ・エリア・ネットワーク(SAN)に移行したいと考えていました。これに伴い、すべてデータと処理を新しいハードウェアに移行する必要がありました。「すべてをハイブリット形式でインストールし、稼働させ、接続し、移行する必要がありました。さらに、これらすべての工程をダウンタイムなしで、わずか4カ月で実行しなければなりませんでした」とAnderson氏は述べています。
ブロードリッジは、柔軟な設計と信頼性に優れたグローバルソリューションを開発するために、パートナーとしてキンドリルを選定しました。移行プロセスおいてまずは、既存環境の評価から開始。次に、ブロードリッジのアプリケーションをロードし、IBM iSeriesクラウドテクノロジーの専用インスタンスをベースにしたプラットフォーム上で本番の負荷を再現するためにベンチマーク・センターを設置しました。これにより、拡張性の高い新しいアーキテクチャーが、必要なパフォーマンスを提供できると実証されました。その後、新たなプラットフォームを構築するとともに、その構築中にプラットフォームのデモを行うプロジェクトを立ち上げました。プラットフォームの完成後、新しいインフラストラクチャーに移行を開始しました。厳しいスケジュールの中、サービスの中断を避けるために、週末を利用し、7回に分けて移行作業を実施。その結果、スケジュールの遅延やダウンタイムを発生させることなく移行が完了できました。
「インフラストラクチャーの変更について事前にお客様にも告知しており、移行によってお客様へ影響を及ぼすこともありませんでした。大規模の移行にもかかわらず、お客様に対して全く影響を与えなかったことは大きな誇りです」とAnderson氏は言います。